加藤和彦

映画を観てから加藤和彦の作品を聴き直している。『それから先のことは』がやはりいいなと思ったことがひとつ,それと『あの頃,マリー・ローランサン』から加藤和彦の歌い方が変わったことにも気づいた。

『あの頃,マリー・ローランサン』がリリースされたとき,メディアの取材をよく目にしたし,坂本龍一のサウンドストリートにもゲスト出演したはずだ。シュリンクされたジャケットを開くと,当時,増えていたレンタルレコード店についてリスナーへのメッセージのようなカードが入っていたことを覚えている。

で,歌い方の変化について,もともと加藤和彦は低音で勝負するような歌い方はしなくて,泉谷しげるが“ふわふわおじさん”と称したように高音のあまり安定しないボーカルスタイルが売りというか,魅力だった。低音で歌った曲はミカ・バンドの「サイクリング・ブギ」くらいしか思いつかない。

『それから先のことは』と『ガーディニア』の,あるかどうか調べていないけれど低音で歌う箇所は印象に残っていない。ヨーロッパ三部作であっても,たとえば「トロカデロ」なんて,『あの頃,マリー・ローランサン』以降の加藤和彦であればキーを下げて歌うかもしれないけれど,高いキーで安定しない感じがとてもよかったのだ。

『あの頃,マリー・ローランサン』以降はそこに,ひっかかるような低音が加わることになる。でも,ひっかかるような低音は必要ないのではないかと思った。みずから失敗作と呼ぶ『マルタの鷹』は低音のひっかかりが顕著で,こんなふうに歌わなくても,不安定な高音だけで歌ったほうがどれほどかっこいいだろうかと。

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