フォークとメタル

そのころ,フォークファン,パンクス,フュージョンファン,メタルファンは,われわれにとって差異化の対象だった。決して,個人を攻撃し,優劣を競っていたのではない。

とはいえ,有名なフュージョン川柳「カシオペア マルタ スクエア ネイティブサン」などは,笑いのつぼにはまった。バンド名(一部個人名)をつなげるだけで,なぜ,あんなに笑えたのだろう。
誰もが,YMCAのピクニックみたいに,同じ理由で笑い合ったりはしなかった。
例の川柳をネタに馬鹿話を続けていると,和之がポツリといった。
「俺,はじめてメンボ見て,YMO好きだっていうから入ったバンド,実はネイティブサンのコピーバンドだったんだ」
この一言が,さらに,われわれの笑いのつぼをとらえたことはいうまでもない。
彼は渡辺香津美ファンだった。あるとき,フリップ&イーノの1stを聞いていると,ジャケ裏の写真を見て一言「香津美と武満徹みたいだね」と,ファン心理を土足で踏みにじるような,実に的確なコメントをした。返す言葉はなかった。確かに似ていた。

さて,フォーク,パンクス,メタルだ。

パンクスについては,ねりパン(練馬パンクス)の一言で片付けてしまおう。ただ,この「ねりパン」,今まで活字で見た記憶がない。「ねり」はカタカナか,または漢字表記だったのだろうか。

フォークとメタルについてのエピソード。
遂に完成をみなかった一曲に,その名も「ナノ・デス」がある。

ことのはじまりは,「フォークの歌詞を終わりは“なのです”が多いよな」という友人の一言だ。もうひとりが「メガとかピコ,ナノ,単位って音にすると情けないな」。
この瞬間,フォーク調の導入部から1番の終わり「……なのデス」にいたると,デスメタルに急転する,「ナノ・デス」のコンセプトは完成した。

英米人が聞けば「デスメタルか」,日本人にとっては「フォークだろう」という乖離のみにこだわったのだが,まず,フォーク調の歌詞を書ける才能がどこにもなかったため,件の曲は今日まで完成していない。
もちろん,デスメタルを演奏することもできはしなかったのだが。

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