家に帰り,Youtubeで昨年のライブを見たところ,皆,イアフォンを耳に挟み込んでいた。日本公演でもモニターしていたのだろうけれど,タイミングをはかりかねるスリリングな演奏だ。
“House of Fun”に続く “Baggy Trousers”のメロディがほとんど“House of Fun”になっていた気がするし,サグスの調子が今一つで,数曲はかなり混沌と響いた。よく止まらなかったな,というくらい。演奏自体は11年前のライブのほうがかっちりしていた。でも,そのことにどれほど意味があるのか,ライブの楽しさにそれがほとんど影響しないのが,MADNESSのある意味凄さなのだろう。
クリス・フォアマンのギターをずっと見ていた那智君は,「まったくうまくならないのがすごいですね」と妙な褒め方をした。ミュートしたカッティング一筋で,リードを弾こうなどと思わないギタリスト。プレイスタイルはストイックなのだけれど,マイクを持つとおちゃらける。
11年前のライブは上半身裸にサスペンダーのスキンヘッズがステージ上にあがりダンサーのように踊っているのを誰も制止せずに,さらにもりあがるような無茶苦茶なものだった。今回はさすがにステージにあがる観客はいなかったものの,フロアはイモ洗い状態だ。いくつかのツイートに記されている通り,英国人がとにかく多かった。
後半,“One Step Beyond”から終演(客出しの“Always Look on the Bright Side of Life”を含め)まで,一生のうちでこんな時間を過ごすことができるのだから,いいものだなあとつくづく感じた。前回のライブのときにも同じように感じたのだけれど,50歳を過ぎているから多幸感は増す。
アンコールで“Night Boat to Cairo”が演奏されるやいなや,小柄で白髪を切り揃えた60歳を越えるだろう英国人カップルが,こらえきれずに中央の柵を飛び越えてフロア前方になだれ込む様子を見た。ああ,やっぱりいいライブなんだな。
ライブを終えて,風邪の引き始めにもかかわらず汗が冷えてきたシャツを着替えることもないままの那智君とともBrewDog Roppongiに入った。あまり言葉を重ねることもなく,ビールとハギスで,ただただ幸せだったライブを思い出していた。
翌日,何だか細々としたことがどうでもよくなっていた。まるで憑き物が落ちたかのように,それは。演奏されなかった曲だけれど,ふと思い出して以来,繰り返し鳴っている。いい曲だな。
セットリスト
- Can’t Touch Us Now
- Embarrassment
- The Price
- NW5
- My Girl
- Herbert
- Wings of a Dove
- Good Times
- Cardiac Arrest
- Blackbird
- Sun and Rain
- Yesterday’s Men
- Mumbo Jumbo
- Grey Day
- Tomorrow’s Just Another Day
- You are My Everything
- One Step Beyond
- House of Fun
- Baggy Trousers
- Our House
- It Must be Love
- Mr. Apple(アンコール)
- Madness(アンコール)
- Night Boat to Cairo(アンコール)