話はある

午前中,西船橋での打ち合わせに直行する。改札で筋金入りのアマチュア・フォークミュージシャンと待ち合わせ,もちろん仕事の件で同行となる。打ち合わせを30分ほどで終えた後,駅の喫茶店で確認事項を詰めて別れた。昼近くになっていたため,北口へ降り,14号線沿いの居酒屋で軽めの昼食をとるつもりが,出てきたのはかなりボリュームのものだった。会社に戻り,仕事。久しぶりにブックオフを覗き,数百円分買って帰る。斎藤貴男の『ルポ 改憲潮流』(岩波新書)をずっと捲っている。

仕事柄,他人の話を聴く機会が少なくない。ほとんどが医療・福祉職との会話で,ただ聴いているだけではなく,長文かつ結論が最後の最後にくるような話し方で返してしまうことがときどきある。

自分から,あれこれ立ち入ったところを詮索して尋ねるのは苦手だ。たとえば3時間,話を聴いたとしてもその人の生い立ちひとつ知らないままということは,実のところめずらしくない。反対に,大変な生い立ちを話されても,その手の話に対するには,方程式の解のようなリアクションがあるのかもしれないと思いながらも,いつもと同じように聴くばかりだ。

少し前,福祉系の仕事をする女性から話を聴いた。仕事の話から始まったのに,いつの間にか,その人の日常について1時間くらい聴くことになってしまった。30歳くらいで,話に登場するのはお母さんと姉弟,そして彼氏さん。最近の若い女性が「彼氏さん」という言葉を使うことに気づいたのは少し前のことだ。「彼」でも「彼氏」でもなく「彼氏さん」。「彼氏さん」と発音されるたびに,微妙な距離感を感じてしまう。

地方に育ち,そこで働いている。小さい頃,お母さんから「林」のあたりは危ないので近づかないように,くりかえし言われたそうだ。田畑が途切れ,山までいかない手前に取り残された「林」。林が残っているあたりは閑散としている。だから事件が起きやすと,言われてみればそうなのだろうなと思う。

通学途中に事件に巻き込まれないよう,遠くの高校に通うことは許されなかった。そのことは語るのだけれど,だから入った高校はどこだ,という話にはならない。もちろん私は尋ねない。

話は日常に飛んで,ワンルーム暮らしで,趣味はセーラームーングッズとポケモングッズ集めだという。彼氏さんは,艦コレグッズに目がないそうだ。二人ともゲームも趣味。彼女はオンラインゲームは卒業したけれど,彼氏さんはオンラインゲームに課金している。そのことを彼女はあまりよく思っていない。

10年くらい前,彼女もオンラインゲームにはまっていて,ゲームを通しての友だちが何人かできた。ところがネットで中傷を受けたり,よい思い出ばかりではないようで,自分からはネットへの書き込みはしなくなり,いきおいオンラインゲームに時間を費やすこともほとんどなくなった。ときどきログインしてみると,当時の友だちが続けていて,1時間くらい相手をするのだそうだ。

ゲームに疎いので,どんなものかわからなかった。話を聴いているうちに,仮想ネットワーク上で遊ぶゲームみたいなものではないかと見当がついた。1時間くらい,洋服をつくって,それを友だちに「あげる」のだそうだ。

グッズを探すのはヤフオクで,ただ競り合わずに即決で買えるものにしか手を出さない。最近,足湯に使える折りたたみバケツを2つ買った。彼氏さんはフィギュアを買っては自分の部屋に置ききれなくなって彼女のワンルームにもってくるのだと。見た目はかわいいから玄関のスペースに飾らせてあげているようだ。

オンラインゲームと聞いて,星野源の話を振ったら,よく知らないという返事。お母さんはジャニーズファンでテレビをよく見ているから知っていると思うけれど,と。彼女はテレビをほとんど見ないのだそうだ。

いつ仕事の話に戻るか,少しひやひやしながら,こんなふうに1時間ほど話を聴いた。これはかなり特殊なケースで,いつもこんな調子で打ち合わせをするわけじゃない。

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