洞口依子映画祭 パート2で矢作俊彦監督作品「ザ・ギャンブラー」が上映されるというのでチケットを予約した。当日は矢作監督も登壇されるというのでたのしみだ。
とはいえ,月曜日の下版が朝2時までかかってしまう。22日に出張校正が終わってからは手持ちの仕事があまりすすまない。
24日の木曜日は単行本の作業に区切りをつけて17時くらいに家を出た。渋谷に着いてから地下を通って文化村通りに出る。ところが東急本店がないものだから,ただでさえ斜め上下に交差する通りばかりの円山町で,すっかりユーロスペースを見失う。コロナ前,LOFT9で古本市をやったのと同じ場所にもかかわらず,オン・エアが左右に見えるあたりをいつの間にか超えてしまった。どうにもこれは違うなと思い,来た道を戻ると,すっかりユーロスペースの前を通りすぎていたことに気づく。
軽く夕飯をとってからユーロスペースに向かった。1階のカフェで洞口さんと矢作さん,他数人が話している様子を眺め,エレベーターに乗る。
「ザ・ギャンブラー」はレンタルビデオが出たときに観て,その後,セコハンのビデオを買ってから観た。シネスコサイズのスクリーンを日活は埋められないようになったと矢作俊彦はどこかで書いていた気がするが,ビデオで観たときの感想は,間隙の多さだった。人の溢集を描くには,予算があまりに少なかったのだなあと上映後の座談で知ったけれど,人いきれが感じられたのは,カードゲームの後半,徹夜明けの場面,人が少なくなってからだった。
主人公は傑という名で,演じた俳優はどこか,あぶらだこのヒロトモに似ている。ドラッグで捕まり,その後の道を閉ざしてしまったように記憶しているが,活舌が手慣れてくれば,おもしろい俳優になったのではないかと思った。洞口依子映画祭とはいえ,誰も主人公について一言も触れないというのは不思議な気がした。
島田一男の『珊瑚礁殺人事件』のネタバレをしたからと言って,誰も困ることはもはやあるまい。1985年に書かれたこの小説の背景にあるのは1997年の香港返還だ。マリアナ諸島のロタ島に香港をそっくりもってこようと画策する一派が,島の土地を買い占めようとする計画の中で殺人事件がいくつか発生する。
犯人のひとりが時速85マイルでグアムの米国空軍基地ゲートのインターセプトのバーをぶっ飛ばして突っ込み,T字路で前半分,アコーディオンのように縮んだ状態で発見される。小説では,ここがラスト前に当たるのだけれど,この後から始まる小説を矢作俊彦が書けばよいのになあと,読みながらずっと思っていた。
島田一男の小説だから,登場人物の造形や動機などは側物的なもので,いかようにも仕立てられる。そんなことを思いながら,昔の「Title」を捲っていたところ,しばしばキューバに通っていた頃の矢作俊彦のエッセイが掲載されていた。というか,エッセイが掲載されているから,今も書棚に収まっているのだが。
ロタ島ではなくキューバではどうだろう。1980年代半ば,香港返還を前にキューバに香港をもってこようとする一派。共産キューバに移るのはおかしなことではあるものの,グアムあたりの島よりも面白くなりそうな気がする。