『マイク・ハマーへ伝言』の第2刷を読み返す途中で「真夜半へもう一歩」連載第1回を読み終えた。三人称で一人称のような文体。たぶん矢作俊彦の文章に打ちのめされたのは,こういう表現があるのだという驚きが一因だった気がする。もちろん,それ以外にもいくつもの要因があるのだけれど。
ただ,一人称のような三人称の文体が流行することはほとんどなかった。それがこの数年,二人の作家の小説を読んで,一人称のような三人称だなあと感じた。一人は藤岡陽子で,もう一人は伊与原新だ。
藤岡陽子はみずから一人称のような三人称の文体が好きだとどこかで語っていた。伊与原新がどう考えているのかわからないけれど,この二人の小説を読みながら,一人称のような三人称の小説の面白さというか,一人称にしないことで物語に神の視点とは違った視点が生まれ,読者はそこに吸い込まれていくのかもしれない。