週末

土曜日は昨夜の酒が残っていて,午前中遅く起きる。家内は気圧と,治験のため,常用していた頭痛薬をストップしたことが重なり,今週ずっと頭痛が続いている。

午後から少し掃除をして,昼過ぎに家を出た。茗荷谷の床屋まで行く。父親のマンションを片づけている時期,週末,地元の床屋に行く時間がとれなくなった。それ以来,会社近くの床屋に通っている。

小一時間で終わり,池袋の古本市を覘こうかと思ったものの,17時からのドラマを予約せずにきたため,とりあえず帰る。予約をして,宅配便が届くのを待ち,21時くらいから夕飯。

日曜日は昼から歯科受診。その後,池袋西武で開催されている古本まつりを覘く。おもしろそうな本と何冊か遭遇したものの,結局「宝島30」1冊を買う。調子が戻ってきた家内と待ち合わせ,ジュンク堂のほうに行く。細かい雨。

ステーショナリー中心に2年位前にできた店の一階で昼食をとる。ジュンク堂を少し見て,東武のカフェで休憩。夕飯用にお弁当を買って帰る。線路際の酒屋に閉店セールの張り紙。いつもは22時まで開いている店にもかかわらず19時前にシャッターが閉まっている。ほぼ毎日,会社帰りに寄り,缶ビールやその他もろもろを買っていた店だ。

20年前,こうした店がこのあたりに何軒かあって,当初,チェーン店にはない品揃えが物めずらしかった。そのうち,これがあたりまえだと思い始めた頃から,一軒,もう一軒と店を畳み始めた。下落合駅のバス通りにあった店は,カルピスバターが常に置いてあって,買ったのは結局,閉店セールのときだったけれど,めずらしい輸入食料品も置いていた。新目白通りができるまでの本通り,畳屋のならびにあった酒屋も,よく利用した。家の裏手でもあったので,足りなくなるものがでると,まずこの店に駆け込んだ。今はヤマト運輸の倉庫になっている。

以前,書き留めた青果店のご主人には子どもが小さい頃,お世話になった。もしかすると子どもの名を呼び捨てではじめて呼んでくれたのは青果店のご主人だったかもしれない。ご主人は闘病の末,亡くなり,店は閉じられた。

チェーン店のスーパーが2軒,このあたりにできたものの,いまだ私たちは,失われた酒屋,青果店のかわりに出会うことはない。

ビッグ・スヌーズ

「新潮」8月号では,矢作俊彦の連載「ビッグ・スヌーズ」は休載。これまでの休載の慣例からすると,他に企画が進んでいることが推察されるが(健康上の問題でないかぎり),まずはたのしみ次号を待つ。休載の慣例って。まあ,これまでのいくつかの作品とは異なり,このまま未完にはならないだろうし。

変則的だった『フィルムノワール/黒色映片』の後,本シリーズが(といっても両手の指で足りる作品数ではあるものの)継続して照らし出してきた「アメリカ人とさよならを言う方法」に「ビッグ・スヌーズ」は再び戻り,そろそろクライマックス近くだろう。「真夜中へもう一歩』を単行本にまとめる際,大幅に加筆されたのはおもにそのあたりだったし,『ロング・グッドバイ』でも同様だった。

気長に待つしかないものの,しばらく前にツイッターで思いついた東電をめぐる事件も二村シリーズとして読んでみたい。

夜は昌己,伸浩,徹と飲み会。

原稿はどうにか揃い,手持ちの仕事を少しずつ進めていく。とりあえず定時すこし過ぎで退社。

19時少し前に池袋に着き,西口からロサ会館近くの王道鴨脖に行く。予約をしていたものの,3回にわれわれ以外,客はおらず,そんなことせずによかったようだ。

裕一がきたとき,八丈島の流れで隣のビルにあるこの店に入った。そのときも空いていた。あたりの居酒屋は繁盛しているのにどうしてなんだろう,と話していると伸浩が「1階が紹介所だからじゃないか」という。そんなものだろうか。

餃子と鴨首,火鍋を頼み,具を選びに2階に降りる。2,3回くりかえし,飲みながらだらだらと話していると23時過ぎになっている。で,一人4,000円もかからない。店の使い方を間違えていんじゃないか,と昌己がいう。確かに数少ない客は,そこそこ食べてさっと帰っていく。4時間も居座るのはわれわれだけだ。

チェックを済ませて店を出ると雨が降っている。駅まで行き,伸浩と別れ,中央線で八王子まで帰る徹と高田馬場で別れ,昌己は先に準急で帰る。中井まで行き,家に着いたのは0時くらいだった。

北千住

昭和の終わりから平成のはじめまでの数年間,週末になると靖国通りから甲州街道を行き来した。まるで教習所の教官のようなしぐさで助手席にすわる伸浩のレヴィンで,路上教習よろしく西をめざした。

ここ20年くらい,車でこのあたりを通ることはなかった。街並みは様変わりしたのだろうけれど,道の曲がり具合はほとんど同じだ。

おじさんは17時半に事務所に戻らなければならなくなったようで,カーナビの予定到着時刻を気にしている。指示には逆らうものの,到着時刻は信じているらしい。「こりゃ間に合わないな」の一言あたりから,私は便のよいところで途中で降ろされ,会社に戻ることに,おじさんの頭のなかではなってしまったらしい。「どのあたりがいいですか。地下鉄?」。急に振られても,相手先には17時くらいにうかがうと言っているわけだから,そこから自力で北千住(正式には京成関屋か牛田)に行けということなのか,予定をチャラにして会社に戻れ(戻るだろう)という意味か。

昔から他人の物言いを勘違いしてとらえることはあった。ほとんどの非は自分にある。ただ,今日ばかりは,これは私の理解力が足りないからではないと思う。おじさんも,起きていることの流れにただ乗っているだけで,前後関係をまったく踏まえていない。

市ケ谷から九段下を過ぎ,神保町あたりになったので,降ろすつもりなら,いっそのこと,このあたりにしてほしい。30年以上,仕事をしていると,そんな気持ちを口に出すことは憚られる。さっきからおじさんは気持ちしか口にしていないようだけれど。

結局,秋葉原を越え,国道4号線を左折した。どうやら,北千住までならば行って,そこから戻っても17時半までには事務所に着くという計算が経ったらしい。そこで私は「北千住というよりも京成関屋のほうが近いですよ」と行先の微調整を促す。

「え,そうなの。じゃあ設定しなおさなきゃ」,路肩に車を止め,カーナビに登録しなおす。国道4号線もそれほどの混み具合ではない。北千住の西口をぐるりと回り込むようにして,そこから少し左に回ると,京成関屋と牛田の駅の間を抜ける道につながった。ああ,北千住と京成関屋の位置関係はこうなっていたのか。10回のうち8回はそのあたり,つまり柳原から北千住まで歩いて帰っているというのに,歩く感覚から把握する位置関係と車で移動しながら把握する位置関係がまったくズレていることに驚いた。当然,車でざっくりと把握する位置関係のほうが事実に即してはいる。

狭い商店街を曲がり,通りを横切り,斜めに入り,そこから右に折れて突き当りをさらに右に行き,一つ目のT字路を左に入ると北千住の駅にたどり着くという感覚も事実ではある。ただ,それは俯瞰できない事実なのだ。

牛田と京成関屋の間を抜ける道を200メートルほど進み,車は止まった。ここから打ち合わせ場所まで300メートルほどだ。私は車を降りた。おじさんは挨拶すると国道4号線に向かい戻っていく。

おじさんを相手先に紹介する予定が,当の本人がここまできて帰ってしまった。とどのつまり,近くまで送ってくれただけだ。流れでそうなったのだからしかたない。雨は流れるままにせよ。ポール・ボウルズもいっている。

でも,ほとんど意味はなかったなあ。

北千住

午後から永福町で打ち合わせ。雨は止んだものの,いつ降り始めてもおかしくない雰囲気だ。とはいえ,家に着くまで天気はもった。

昼過ぎに会社を出て,池袋でお茶菓子を買う。新宿で京王線に乗り換え,明大前でさらに井之頭線に乗り換える。14時の予定を数分過ぎてしまったものの,15時半過ぎまで打ち合わせ。

近所のセブンイレブンの駐車場で,お世話になっている印刷所の営業のおじさんと待ち合わせ,車で北千住に向かう。日頃,声はでかいものの温和な営業のおじさんは,ハンドルを握ると性格が一変する。

まず,カーナビを使っているにもかかわらず,カーナビに対する猜疑心を抱えている。「ほら,また混んでいる方に誘導する!」,独り言だ。助手席ではなく,後部に座ったから,私に向けれられた言葉かどうか,それなりに判断することができたけれど,助手席に座っていたら混乱してしまっただろう。

カーナビが何か陰謀をもって指示を出していると考えるドライバーは,もしかすると世の中に相当数いるのかもしれない。その後もカーナビとの闘いだ。逐次,カーナビの指示を無視していく。初手から切ってしまえばいいと思うものを,全体,道順を把握していないから,点けておかざるを得ないのだ。

30年間,ペーパードライバーの私であっても,環七に誘導されるのが嫌ならば,甲州街道に入って,靖国通りから国道4号線に入るくらいの道順を描くことは容易い。

初台に向かうことに何かトラウマがあるのか,カーナビが初台と言うたびに,その手前を入ろうとする。結局,甲州街道に出る前に左折して,清水橋に向かう。そこそこ空いていたので,判断はあながち間違いではない。ただ,清水橋を右折し甲州街道に乗った判断をなぜか後悔する。「まっすぐ行っておけばよかった,ちくしょう」。いや,熊野神社を越えて新宿駅西口から靖国通りに入るほうが混んでいると思うのだけど。

信号が変わりタクシーがスタートに少し遅れただけでクラクションを鳴らすし,車線変更もしたい放題だ。日頃は温和な団塊世代のおじさんで,渡辺美智雄みたいな見た目でとっつきやすいものの,ハンドルを握るとこんな闘いの日々だったのか。

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