煮詰める

この夏,野菜のスープをつくっていたときのこと。

料理本片手に,慣れない包丁と格闘したのち,材料をなべに入れ,火をかける。20分後に,なべのなかからこんぶを取り出すのは,味を出し終わった後,そのまま煮ていると味を吸収しはじめるからだという。

そこからさらに20分。何も加えず,煮詰めていく。

不思議に思ったのは,20分前の味から水分を飛ばした20分後の味をどのように想像するかということだ。味を足していくのならば,それなりに想像も出来はしよう。正直,私には20分前の味から,煮詰め終えた20分後の味は,まったく想像できなかった。

意味

画家か音楽家になりたいと私は思った。色や音には意味の泥川の向う岸にある瞬間の,不動の,不銹の純粋さがあるように私には感じられたのである。文字はどうにもあいまいで,やくざで,舌足らずで猥雑なように思えてならなかった。
開高健『食後の花束』,p.25,角川文庫,1985.

シミュレーション

シンセサイザーが身近な楽器の一部になりはじめたころ,雨後のたけのこのように,クラシックをシミュレートした音色とアレンジでできあがったレコードがリリースされた。生活の糧としてその一部に加担した平沢進はそうしたレコードを“労多くて益少なし”と切り捨てた。つまりは生のシミュレートをするならば,生で演奏したほうが手っ取り早いというわけだ。

と,昨今のデジタルブックのテクニカルな面を眺めると,シンセサイザーで生音をシミュレートしようと奮闘していた当時を思い出し,なんだかくたびれてくる。

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