バンドホテルのウイリー沖山

横浜山手の「バンドホテル」には一度だけ宿泊したことがある。昔日を偲ばせるものはほとんどなく,あのとき摂ったモーニングほどコストパフォーマンスにかなわないものは,あとにも先にもない。笑顔を絶やさない昨今のホテルマンに比べると,慇懃無礼なだけ新鮮に感じられたフロントマンの態度。
無国籍というよりは,アウト・オブ・デイトなようすは好き嫌いは分かれるだろうが,経験しがたいものではあった。

最上階の「シェルルーム」は続いていた。
フロントで,ウイリー沖山のポートレイトをあしらったチラシを手にした。港のホテルで毎日2ステージ,週末は3ステージを勤め上げる支配人。考えただけでも,1ダースの小説のアイディアが思い浮かぶというものだ。こちらもコストパフォーマンスと合致せず,その扉をくぐらなかったが,幸運にも(?)6階をリザーブしたわれわれは,最後はヨーデルが響きわたる,夜半までつづく彼のステージを堪能することになった。

ライブハウス「シェルガーデン」は,バンドホテルの右隣にあり,解凍前のP-MODELは,たびたびライブを行なった。  “different≠another”が演奏された日は,車寄せを隔てて,「シェルルーム」と「シェルガーデン」でヨーデル合戦が繰り広げられていたことになる。

われわれが宿泊して,数年後,バンドホテルはその幕を閉じた。

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