Rセクション

「Rセクション?」
「そうさ。もう秘密でも何でもない。マッカーサァ司令部の分科会の誰か,――きっと発言力だけは大したもんだったんだろう。――その誰かが,日本人から軍国主義的要素を取り去るには米食の習慣を取り上げるのが一番だって言い出したのさ。そこで研究がはじまった。日本人を日本人たらしめているエレメントの,果してどれほどの割合いが米食によるのか彼らから米を完全にとりあげるには果してどうしたらいいのか」
「いつまであったんだ。そんなセクション」
「一九六〇年の七月だ。面白いのはそれだけじゃない。そのセクションがあったってことだけじゃないんだ。日本政府の高級官僚と政府与党の長老たちが,その存在に気付いたとき,本気で怒ったってことさ。本気で,厳重な抗議を申し込んだんだ。笑っちまうよ」
「ぼくには素直に笑えない」
矢作俊彦:眠れる森のスパイ,第25回,1985年

……『米食の習慣を破壊することで,日本の原則に劇的な転換をもたらそう』ってさ発令書にちゃんと書いてあったぜ。しかもさ,そんなものが,一九六〇年まで生き残って,予算をとってたんだからな」
「活動はしていたのか」「一九五一年までさ。一級行動――今で言うランクAの作戦行動をしてたらしい。実体は判らないんだ。どこにも記録がないんだよ。そこから推測するに,――たとえば,製パン業者に対する技術供与,原料の優先割当て,それにパン食の宣伝,そんなことで金を使い散らしていたらしいな。たとえば,保守党の文教族に取り入って,将来的な給食制度全体を操作するとかさ,――マーヴェル・コミックと五十歩百歩だ。何の実効もあがっちゃいない」
同,第26回.

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読んで,あれ,これ読んだことがあるというくだりが何か所もあった。引用した箇所は矢作俊彦が1985年に連載した小説の一節だけれど,その少し前,東郷隆とともに,「R計画」に対峙するスパイ(THE ITAMAE)についてFM番組で話しているのを聴いたことがある。

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