一箱古本市

土曜日は排水管清掃が来るので,朝から部屋を片づけた。午後からは翌日のみちくさ市の準備をようやく始める。

文庫本を多めにもっていこうと思い,あれこれピックアップするうちに,とても面白いラインナップになった。ただ,本の状態はあまりよくないし,別にみちくさ市に来なくても手に入るものがほとんどなので値付けに苦労した。夜からはパソコンに値札のデータを打ち込み,はがきに印刷。家内と娘に切ってもらった値札を本に挟み込む。23時を過ぎてようやく作業を終えた。

日曜日は曇り空。気温は低い。本を入れた段ボール箱をカートに載せて家を出た。高田馬場で乗り継ぎ,目白駅から歩く。セブンイレブンでコーヒーを調達して,受付を済ませた。セッティングを終えたのは11時をまわってしまった。

最初に売れたのは『世界反戦詩集』と『相模原事件とヘイトクライム』。続いて帽子をかぶったMさんに松下竜一『その仕事14 檜の山のうたびと』を購入いただく。このあたりで午前中を過ぎ,12時をまわってもあまり本は動かない。家内がやってきたので,早めに昼食をとる。目白まで自転車で行き,寒いので酸辣湯麺を食べたのだけれど,胡椒系ではなく唐辛子系の酸辣湯だったので重かった。

戻ってきてから家内と店番を交代。私がいない間に,吉野せい『道』,堀淳一『ケルトの島・アイルランド』が売れたとのこと。ときどき,売り場に向かうおもしろ本棚の皆さんが立ち寄ってくださり,二階堂奥歯『八本脚の蝶』,燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』を購入いただく。これで売り上げがかなり底上げされた。

娘の了解を得て並べた本のうち,ドラえもんの学習シリーズは完売。子ども向けに並べた他の本も14時すぎにはなくなった。毎回,目標売上冊数の数分の一相当の児童書を携えてくればよいのだなあと,4年近くみちくさ市に参加して,ようやくコツがわかってきた。からといって毎回似たようなものを並べるのは妙な感じがする。

15時くらいまでで動きはほぼ止まる。大熊一夫の『ルポ精神病棟』が売れたのだけれど,ちょうど私が店を留守にしていたときだったので,どんな方が買ってくださったのかわからない。実はあれ,値付け間違えて高くしてしまったのだ。

ミニフェアと称して並べた結城昌治と吉野せい。結城昌治はまったく動かず,吉野せいは2冊もっていって1冊売れた。同じ作家の本ばかり並べても芳しくないのはこれまでの経験からしてもわかっているのだけれど,ときどき並べたくなる。以前並べた江戸川乱歩の評論,内田百閒,小林信彦は数冊売れはしたものの,全体からみるとそれほどの動きではなかった。

15時過ぎに一通りの店を眺める。笈川かおるの『借りてきたネコのブルース』が並んでいるのを見つけ,思わず買いたくなった(手持ちがあるのでやめた)。おもしろ本棚のみなさんのブースで,近藤よう子『水の蛇』『五色の舟』を買って戻る。

16時少し前に店をたたみ,受付に挨拶して家内と帰る。途中,目白通りにできたカフェで休憩。おも本の皆さんと遭遇。一日,路上に立って本を売る以外のことをしないというのはいいなと思った。

荒畑寒村の『寒村自伝』を読み進めていた。とにかく明治時代の生活を描いた「空想少年の生い立ち」が面白い。ただ,そこから一転,日露開戦にいたる時期,工廠が動員される様子は次のように描かれる。他者を「動員」しようとしはしまいかという自分への戒めを,いついかなるときにも持たなければ,と思う。

職工は文字通り昼夜兼行,わずかに深夜に時間の仮睡をとるのを許されたにすぎない。弁当なども深夜に食う分を加えて一日四食ずつ家族に運ばせ,数日間ぶっ通しの昼夜連続作業にもうこれ以上ははたらけないほど疲労した時,やっと帰宅を認められる始末であった。
(中略)
日をおうて過激の度と加える労働が,職工の間に発病者を増すことはまぬがれ難い。脚気を患っている多くの職工が青竹の杖にすがって,工廠の門をくぐる姿を見るのは珍しくなく,新高のハッチを中甲板に降りると,青ぶくれした生気のない顔が悩む脚を投げ出して坐り仕事をしている。それを見ると,幽界にさもよう死霊に出会ったような不気味さを感ぜずにはいられない。

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