核P-MODEL

現地で待ち合わせた昌己と2400番台の呼び出しあたりで落ち合った。雨の新木場Studio Coastに比べると,客入れの段取りは遥かにスムーズだった。ドリンクバーの列も大したことはなかった。

ところが,フロアに入るドアのあたりまで人が溢れている。ドリンクバーから近い,ステージに向かって右側が全体,そんな感じだ。左側の様子はわからない。ただ,様子を見に行くには,物販の列を横切る必要がある。その踏ん切りがつかないまま,さらに人が重なってきた。「始まったら,少しは圧縮されるんじゃないか」昌己はそう言うものの,何だか不安になってきた。今の平沢関係のライブで,後ろから押されるような動きになるとは思えない。

開演の時間が近づく。と,物販スタッフの1人だろうか,中年の男性が「反対側,若干余裕ありますよ」と声をかけてきた。あたりの一塊が群衆から剥がれ落ち,反対側までかける。確かにステージ向かって左後方はまだ余裕があった。2,3本のバーを前に越えたあたりに陣取った。

平沢がステージに登場する。ギターを抱えている。マイクスタンドのようなオブジェが見え,その前に立つ。1曲目は「いまわし電話」。昌己と爆笑してしまった。ドラムがいないので,尺とテンポは決まっているけれど,ギターを弾いて,音も出ている。大阪のライブでも1曲目はP-MODELから始まったとはいえ,「いまわし電話」で始まるライブを観た記憶はない。歌詞は飛ぶし,歌はリズムに付いていけていないし,まったく完璧からほど遠い始まりだったものの,だから,前回書いたようにP-MODELっぽく感じた。マイクはケイト・ブッシュ発のあれで,スタンドマイクでないことはすぐにわかった。それにしても。

核P-MODELの曲が続き,モニターのCGはとても恰好よい。それよりも全体にギターの音が鳴り続く。打ち込みとギターのバランスがよい感じだ。

サポートに入った会人2人は,きっちりと仕事をこなしているような雰囲気。表情が伺えないため,あくまでも演奏の様子からだけれど,そんなふうに感じた。それゆえに2人はメンバーじゃないのだなあと,解凍前後のライブと比較してそう思う。

後半,すっかり安定したステージ上で,にもかかわらず平沢のボーカルは必ずしも調子がよいとはいえない。一方でギターの調子がよいのが新鮮だった。

アクリルポップと称した1st,2ndから一転,びしょっとした3rdのボキャブラリーそのままのギター音にコリン・ニューマンのカバー曲を思い出す。”SSS-STAR EYES”だ。「歌詞が単純だからカバーした」と,しらばっくれていたこの曲,3rd以降,P-MODELの音の変化に影響したに違いない。核P-MODELの3rdアルバムで当時のボキャブラリーを引っ張り出したさまを,The Shadowsの“Apache”を換骨奪胎して“How Does the Grass Grow?”をつくったキャリアの終盤のDavid Bowieになぞらえてしまうのはしかたあるまい。

四半世紀ぶりにP-MODELと冠されたバンド・ユニットのライブに足を運び,この間,足を運ぼうとは思わなかった自分をすこし恥じた。

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