宇都宮


宇都宮病院事件が起きたのは昭和50年代の終わりことだ。新聞の調査報道がもとになって事件が明るみに出た。当時,複数の新聞が事件を掘り下げ,この事件がもとになり数年後,法律改正にまで至った。

ただし,今日,宇都宮病院のサイトを見ても,そのことについてほぼ触れられていない。

数年後,私がアルバイトをすることになった精神病院は,1970年代,大熊一夫の『ルポ精神病棟』でつまびらかにされたのと同じようにして,また矢作俊彦の『真夜中にもう一歩』のなかで,新聞記者が高知と埼玉の事件として二村に紹介する「埼玉の事件」の舞台となった病院だ。

その病院は,事件後,もちろん経営陣を一新した。私がアルバイトをしていた頃には,事件の事実と,新たな経営陣によりまとめられた病院の理念と経営方針が示されていた。事件の反省をもとに,開放病棟と閉鎖病棟を併設し,地域にひらかれた病院として再スタートしたと読んだ記憶がある。

宇都宮病院事件の後,病院と東大医学部との癒着はもちろん,病院トップの刷新はついに行なわれることがなかった。そのことに異を唱える論調を読んだ記憶もない(いくつか発表されたとは思うのだけれど)。オウム真理教事件の後,何冊かの本を書いた元東大病院の精神科医は,宇都宮病院事件に蓋をするかのようにして,オウム真理教事件だけを語った。日大とともに1968年の学生運動の種火となった東大医学部赤レンガ一派のなれのはてだ。

数年前から,ときどきブックオフに分厚い本が並んでいるのを目にすることがある。目につくのは著者が宇都宮病院の当時の院長だからだ。精神医学と俳句をテーマにまとめられたものらしい。自費出版されたと思しきその本は,600~700ページ近くあるハードカバーで,角川書店と袂を分けた書店の自費出版部門から刊行された。

ブックオフでその本を見たとき,宇都宮病院事件に頬かむりし,こんな本を自費出版する,出版できることに非道く違和感をもった。

先日,朝日新聞朝刊のサンヤツに,その本の広告を見た。刊行されてから11年を経て,新聞に広告を打つ。金さえ出せばモラルは関係ないのか。その広告を見たとき,単純にそうとしか思えなかった。

群馬県の三枚橋病院は同じ頃,精神科医療のメルクマールとなる医療を提供していると注目された。偶然にも宇都宮病院と同じ苗字の院長は,当時の実践について岩波新書でまとめている。

広告への違和感のほうが,存在への違和感より先立つわけがよくわからないけれど。

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