事務

編集者には二通りいる。片づけ上手な奴とまったく片づけられない奴だ。と名無しの探偵が言ったかどうか定かではない。私はといえば,後者のまま30年以上過ごしてきた。あまり不便を感じることなく。

今後のこともあるからと,この1か月,週のうち数時間を営業事務に関するレクチャーで費やしている。30年以上経ても,本や雑誌の流通と,それに伴うデータベースの管理,書類の保管と発送について,ほんの一部にかかわっただけで済んだ。済んだのはもちろん,そのことを専門にして仕事をする人がいるからだ。

営業事務の引き継ぎをうけながら,編集の引き継ぎはこのようにはいかないな,と思うことがしばしばあった。というのも,進行中の出来事は幾層もの込み入った経過で結びついていることが少なくない。結局,企画に携わる一人ひとりについてレクチャーすることが本来,引き継ぎすべき要諦のはずだ。

現実にはしかし,これまで行なった数度の引き継ぎの局面で,経過はほとんどおざなりだ。編集者の仕事は,もう一歩を踏み出すことが優先される。踏み出すことができれば,経緯はあまり意味をもたない。踏み出すために必要な経緯は,人が替わればリセットされるようなものだ。

営業と経理を積み重ねたかのような営業事務の仕事をようやく理解しはじめると,一日,一週間,一か月,一年とまるで小学校の頃,図工か理科でつくったクランクのようだ。理にかなっている。車輪をまわし,届いたものをつなげば,基本的な仕事は顔が変わっても進むかのようだ。ばくちのような編集の仕事とは明らかに違う。

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