値段

1980年代が始まるほんの少し前,ときどきLPを買うようになった。通学路の半ばほどにあった新星堂に,学校帰りに寄っては品定めする。King Crimson界隈の情報を得始めた頃だったので,プログレ棚を行ったり来たりした。

キングのユーロロックコレクションシリーズは,どうもイメージ的に安っぽく思えて近寄らなかった。イーノのLPもプログレのあたりにあって,こちらも当時は買わなかった。そんな頃のことを思い出しながら,どうやってLPを選別したのだろうかと考えてみた。

当時,安いものは1枚1,980円ほど,おおむね2,300円くらい。輸入盤で米国盤は1,000円台で並んでいたけれど,英国盤は2,700円くらいした。安いのは米国盤で,次が国内盤,高いのは英国盤。音のよさもだいたい値段に比例していて,ステレオセットに大してお金をかけていない私の家であっても英国盤をかけると音の違いは歴然とした。

1枚2,300円は学生にとって手軽に出せる金額ではない。で,どうやって対価を想定していたかという話になる。七面倒くさいことを言っていても,アルバイトして稼いだお金を使ったりするわけではなく,対価のイメージは貧乏くさいものだった。ここ数日,あれこれ考えていたところ,つまりは1枚のLPにどれだけの人(ミュージシャン)がかかわったかがあって,次に曲数(多すぎてもダメだし,少なすぎても引けてしまった)。簡単に言ってしまうと,ギター1本で弾き語りでLP1枚,両面合わせて14曲なんてLPにはまず手を出さなかった。

ELPをLPで聞かなかったのは,メンバーが3人しかいなかったということが影響しているかもしれない。買うには最低でも4人分の楽器が鳴っていなければならない。曲数は多すぎてのダメ,少なすぎてもダメだ。ということで,最初に買ったKing CrimsonのLPは”Starless and Bible Black”になる。これがすばらしいアルバムだから反省する必要がなかった。

ところがイーノの”Music for Airport”あたりを引っ張り出すと,これ買ってよいのかと悩んでしまうのだ。どうも楽器の音はあまり鳴っていないみたいだ。曲は長いけれど,タイトルはシンプルすぎじゃないか。

振り返ると,貧乏くさい選び方としか言いようがないものの,当時,ロックはそれなりのお金をかけてアルバムがつくられるもの,というイメージが強かった。「お金をかけたもの」というのが基準のひとつで,それはパンクやニューウェイヴにしても変わりない。フライングリザーズだってLP出すのだからお金がかかっていると思わなければ手を出さなかった。

そうやってLPが増えるなかで1981年がやってきた。ロバート・フリップの”Let The Power Fall”がリリースされたのだ。先の例にならえば,絶対に手を出さないLPの基準が揃っている。にもかかわらず,1981年というと北村昌士のクリムゾン本が出た頃だったし,すっかりフリップのギターとブラフォードのスネア中毒になってしまっていたので,ついこのアルバムを買ってしまった。

A面1曲目からB面ラストまで,すべてフリッパートロニクスの演奏が納められたこのアルバム,買ったときは金返せと思ったものの,結局,その後,繰り返し聞くなかで愛聴盤となってしまった。恐ろしいものだ。80年代に入ると,LPを買うのに先のような暗黙の基準は少しずつ崩れていった。

CDがリリースされはじめると,ギター1本であろうが面白そうなものは買ってみることにした。セコハン市場に大量のCDが流通し,手軽に買えるパッケージになったことが大きな要因だろう。以後,四半世紀をはるかに過ぎ,10代の頃,貧乏くさい基準でLPを買おうかどうしような悩んでいたことをふと思い出す。

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