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4曲目“ロックンロール・ハネムーン ”。先のiTunes限定シングルのときは,音の弱さを感じたものの,アルバムではとてもいい感じにまとまっている。このリズムってマーチよりウエスタンっぽいなとふと思った途端,ならばYMOの“Ballet”もウエスタンか??  それが新鮮だった。

5曲目“Liberty&Gravity ”。ライブで何回か聴いたときの印象はフォークルの“コブのない駱駝”。繰り返し聴くほどに味が出てくるというか,構成を記憶にとどめたくなる。今回のアルバム全体に感じたのは,点描を拡大してそこに自然と注意を向けてしまうような音の構成の妙だと思う。
点描画は,もちろん全体を見せるための手法をいうわけで,そのまま音楽に置き換えるとスティーブ・ライヒのミニマル音楽や新生King Crimsonの中心となる曲だろう。
しかし,点描画もライヒもKing Crimsonも,拡大して構成の妙を目的に作品が生み出されているわけではない。今回のアルバムが奇矯なのは,だから点描画的なアプローチで,ミュージックコンクレートやサンプリングと同等の面白さを盛り込むことが意図的に試みられているからだろう。

6曲目“しゃぼんがぼんぼん”。“日本海”と同じく,「なう」という歌詞が,オノマトペのように用いられているのが面白い。小説では昔からオノマトペを用いた文章が稚拙だとされることがあって,夢野久作やたぶん宮沢賢治も,辛辣に批評されたはず。
でも,「なう」に,「なう」にさえ,なにがしかの情感を封じ込められることは発見。

50歳からの赤い公園

会社帰りに立ち寄った近くの書店ではFMが流れている。聴こえてきたのは荒井由実の“晩夏(ひとりの季節)”。NHKの銀河テレビ小説がよかった時代を思い出す。DJも同じことを言う。

赤い公園のアレンジ,演奏のセンスが,目にしたインタビューに登場するバンド,歌手とどうしても結びつかない。あぶらだことかP-MODELとか,キャプテン・ビーフハートとか,そういう固有名詞が登場するのを期待しても一向に出てきはしない。先日も昌己と飲みながら「“ひつじ屋さん”の出だしはどう考えても“カルカドル”だよな」とか「ニューウェイヴを経過していないとは思えない」とか話したばかりだ。

新譜を聴いて,13曲目“お留守番”で,ようやく荒井由実っぽいなと感じた。エレクトロニカを交えた展開はまあ独壇場。

繰り返し聴いてしまうのはオーラスの“木”。思い出したのはSiouxsie And The Bansheesの“Love Out Me”なのだけど,“木”のほうが情報量が圧倒的に多いし,格好よさは数段上だ。

赤い公園の楽曲の多様さはビジュアル系の多様さだ,と感じたのはあながち間違いでないと思う。ラルク・アン・シエルをきちんと聴いたことはないけれど,シングル曲がかかったときに,おやっと引っかかるところが似ている。ラルク・アン・シエルはCDを買おうと思ったことは一度もないのだから,赤い公園には,さらに何かあるに違いない。

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1曲めの“2034”は展開の妙。メロディよりも一音一音追っていくと面白い。先にも書いたけれど音の処理が格好よい。
明るく聞こえるメロディと,それが決して解決しないまま,続いていく構成は,まるで世の中を反映しているかのようだ。20年後まで,このもやもやが続いているという,あきらめさえ感じてしまう。

2曲目の“日本海”は,ところどころ“GUILTY”を思い出した。

3曲目の“浜辺にて”は,2014年版“アナーキー・イン・ザ・ムジーク ”といった塩梅。

50歳からの赤い公園

くるりのアルバムに続き,赤い公園の新譜“猛烈リトミック”がリリースされたので購入。

最近の新曲2曲が,代替可能な部分を広げたような音づくりに感じたので,先日も昌己と記名性が気に入ってたのに匿名性に流れると残念だなと話したばかりだったのだけれど杞憂だった。どこに匿名性があるのだろうか,というくらいオリジナリティにあふれたアルバムだった。これなら50歳になってからのリスナーにもウエルカムしてくれる,そんな音だった。

くるりの新譜についても書きたいことばかりなので,交互になるかどうかわからないけれど,とりあえず続けていきます。

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予約していたくるりの新譜「THE PIER」を家内がとってきた。娘も交えて聴いている。家内がよく聴いているのは竹内まりやや山下達郎,松田聖子に今井美樹と,音楽の趣味については治外法権でこれまでやってきた。数年前から,くるりだけは歩み寄ることができ,娘と3人でそれなりの回数,ライブに出掛けた。ということは,これまで記したとおり。

「Liberty&Gravity 」は,少し前のライブでお披露目されてからフロアで何回か聴いたからだろうけれど,あの「変な曲」を竹内まりやファンの家内が「ポン,ポン」と口ずさんでしまうのが,とにかく面白かった。考察すれば,レポート1本くらいはまとめられそうな反応の面白さだ。

1~3曲目の感じが「THE WORLD IS MINE」の「GUILTY」から「静かの海」に似ていなくもない。少なくとも音の処理については巷で例にあげられている「ワルツを踊れ」よりも「THE WORLD IS MINE」と共通していて,かなり手間をかけているように聴こえた。

ヨーロッパのスタジオでドラムを録音したと聞くと,中山ラビの「甘い薬を口に含むと」を思い出して,期待が殺がれる。ハンザ・バイ・ザ・ウォール・スタジオはさておき。「ワルツを踊れ」のドラムは,私には音の処理が甘すぎて,それがあのアルバムによい印象をもっていない大きな原因だと思う。

今作は,実のところ「坩堝の電圧」と曲のアプローチとしてはそれほど変化していないはず。大きく異なるのは音の処理やアレンジがやたらとチャレンジングなところだ。特にドラムは久しぶりにこんな格好よい音を聴いた。ほとんどBOBOの演奏だというのだけれど,クレジットを見なければ打ち込みだと思ってしまうくらい。「坩堝の電圧」も,ドラムの音が(悪くはないけれど),フレーズに比較してあまりに当たり前で,今でも凄くよいアルバムだと思うものの,そこだけは今ひとつの感じをもっている。(つづきます)

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