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テルミニ駅に着いたのは午前0時までほど近い時刻。意外と人通りが少ないというのが第一印象だ。 ミラノへの夜行列車のチケットを買い求めるべく切符売り場を探して列に並ぶ。列があるのだから列車の発着はあると,私は思った筈だ。

しばらくすると私の順番がやってきた。カウンターの向こう側には,ファミレスの店員の態度と正反対にもかかわらず共通した印象で女性の駅員が座っている。イタリア語はできないので,「ミラノ」とだけ言うと,駅員は首を横に振る。メモ帳を私の前に差し出し「8:30」と記した。「ミラノ」と繰り返すと,メモ帳を軽く揺さぶり,列を離れるように促された。明日の朝まで電車はないのか? そのような意味のことを英語で話したところ,彼女は頷いた。私はおとなしく列を離れた。

バックパッカー崩れで塾教師を経て会社に入ってきた芳野は『地球の歩き方』を徹底的にばかにしていた。

「あれは『地球の迷い方』ですよ。鵜呑みにして事故に遭遇した知り合い,何人もいるんですから」 「夏休み明けにミラノに行くんです」

「『地球の歩き方』だけはもっていっちゃだめですよ。ひどい目に遭遇います,絶対」

にもかかわらず,そのとき私のバッグのなかに『地球の歩き方 イタリア』が収まっていたのは,旅行へ行く前に寄った実家で,親が使ったお下がりを持たされたからだった。その前年,両親はローマからミラノをめぐるツアーに出かけた。誰に紹介されたのか聞かなかったものの,その際に『地球の歩き方』を買ったのだそうだ。ツアーなのに『地球の歩き方』はないと思うが,私は私でHISで手に入れた簡単なパンフレットだけを持ってでかけようと思っていた。世間を甘く見ていた頃なので,何とかなるだろうと,花井薫よろしく根拠のない自信だけはあった。

「とにかく持っていきなさい」

母親はそう言うと,まるで作りすぎてしまったコロッケとポテトサラダを渡しでもするかのように,その本を押し付けた。

『地球の歩き方』を捲ると,夜のテルミニ駅がどれくらい物騒なところであるか体験談と称して紹介されていた。確かに役に立たない。時差ぼけでまったく眠くないものの,朝までここで過ごす気持ちにはなれなかった。宿を探そう。

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