流し

新宿ゴールデン街を紹介した番組のなかで,昔は流しがまわってきたという話が出て,あれは新宿ゴールデン街だろうかとしばらく考えた。たぶんそうだったのだ。

新宿ゴールデン街には数回しか足を運んだことはない。それはまだ20代の頃で,すでに矢作俊彦の小説に嵌っていたので,自分ではあえて近づかなかった気がする。連れられて行ったのだ。

16時過ぎというのに,社内には誰もいなかった。そこに北原さんがやってきたことは覚えている。北原さんは会社のOBで,そのときは定職についているのかどうかわからない様子,情報を広告会社に流しては生計を立てているらしい。

飲みに誘われた。17時までは電話番をしなければならなかったけれど,その時間,用事があると,たいていはファクシミリが流れてきた。かかってくるかどうかわからない電話を待っているのはばからしい。北原さんに誘われて,ゴールデン街にしてはまだ時間が早い頃から飲み始めた。そのことはいつか書いたはずだ。そこは田中小実昌が通ってくる酒場で,ママさんがお通し用に納豆をかき混ぜているところに遭遇した。

つらつら思い出すに,流しと遭遇するとしたら,まず考えられるのはこのときだ。たぶん,「星の流れに」とか「東京の花売り娘」とか,つまりは戸川純が「昭和享年」でカバーした曲を頼んだ気がする。ただ,当時の時系列と微妙にずれが生じているのだけれど。

まださびれていたころの新大久保で,上司が行きつけの飲み屋に連れられて行ったことがある。もしかすると,あのときかもしれないが,とにかく昭和の終わりから平成の初めあたり,流しはいたのだよな。

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