矢作俊彦が寡作で結果的によかったのは,1980年代半ばまでにまとめられた小説やエッセイのかなりを暗記できたことだな,とこの頃思う。当時は,それこそ紙マッチのなぐり書きでも読みたかったものの,今となっては,それもあって,くりかえし読んだのだと思うのだ。
同じ頃,旺文社文庫で内田百閒が毎月のように刊行され,それも読んだけれど,内田百閒は寡作な作家ではない。文庫で40冊以上の文章をくりかえし読むことはあまりなかった。だから記憶に残っている文章は,矢作俊彦に比べるとかなり少ない。記憶に残っているけれど,出典を探すのにも一苦労だ。
笠井潔の『バイバイ、エンジェル』を読み終え,それでもなんだか納得いかなくて二度目を読み終えるところだ。ある時期まで,まあそれは短い期間ではあったものの,笠井潔も寡作で,平井和正オマージュ作を立て続けに刊行した後,また寡作(とはいえ,たまに刊行される作品のボリュームはどうなのだろう)に戻った。でも,初期三作の魅力はその後の作品となんだか違うように感じるのだ。