marriage

数か月前に結婚した裕一夫妻が東京にくるというので,大学時代のいつものメンバーが集まった。体のよい忘年会の理屈みたいなものだ。

昌己が池袋東口の中華料理屋を予約をとった。先週に劣らず忘年会シーズン真っ只中なので,何軒かの候補には断られたようだ。

前日に喬史から「何かプレゼントを買ったか?」とショートメールが届いた。友人の結婚式なんて10年振りのことだったので,そんなところまで気がまわらなかった。とりあえず,私が,というか家内に選んで買っておいてもらい,代金はみんなで出し合うことになった。

18時半に昌己と裕一夫妻がすでにいて,その後,伸浩,和之,紅一点の葉木谷さん,最後に喬史がやってきた。主賓は裕一夫妻だし,奥さんに会うのは初めてだったので,あれこれ話しはしたものの,隣では和之が今,嵌っているのはKORGのMS20 Miniで音を出すことだとか,伸浩が会社を独立したら,こんなことをしたいなどわけのわからない展望を話しはじめたりで,まあ,いつもの飲み会に落ち着いてしまった。

裕一の奥さんから「高知でライブされたそうですけど,どんなの?」と尋ねられたので「しいて言うならJ Popかな」と答えたところ,昌己,裕一に爆笑された。「あれがJ Pop? ナイ,ナイ」。確かに。

和之はMS20やテルミンを鳴らしたいようだし,那智君もギターを弾きたいと練習しているそうなので,少し早めにスタジオに入り始めて自称J Popを鳴らしてみたくなってきた。

平日

「今日は木曜日だ」という妙な感覚のまま,目を覚ます。頭痛が非道い。薬を飲んでもう一眠りした。会社に連絡するために一度起き,再び起きたのは9時半を回っていた。狐につままれたような感覚で仕事に向かう水曜日。

昼過ぎまで頭痛が続き,重いギアで自転車を漕いでいるような感覚。にもかかわらず,こちらはスピードが出るわけじゃない。対談原稿に手を入れ,どうにか形にする。文章の塊のなかから何を引っ張り出すか,テープを起こしてみなければ見当がつかないのは,仕事のやりかたとしてはまずい。ただ,文章を機能的にまとめていく能力は持ち合わせていない。木のなかからオブジェを探し出すような所作以外で原稿をまとめあげることはむずかしい。

20時過ぎに会社を出る。ますます寒くなってきた。

相変わらず国分拓「ノモレ」を読んでいる。第一部折り返しを過ぎ,ますます面白い。

積みあがってしまったひとつの課題を片づけるのに一年間くらいのスパンが必要な感覚があるのだけれど,散在するあれやこれやを片づけるのに,こんなスピードでは余生すべてかかってしまいそうで不安だ。余生にたどりついていないなかでは,片づけるそばから課題が増えていく。シューシポスどころではない疲労感だ。

眼鏡

夕方からインターフォンの修理があるので16時に会社を出た。17時に携帯が鳴り,修理にきた人を1階まで迎えに行く。築20年のマンションともなるとインターフォンの基板がいかれてしまうらしい。一式取り替えてもらい,作業は済んだ。

その後,家内と高田馬場に眼鏡をあつらえに行く。ビッグボックスで娘と待ち合わせ,眼鏡店でフレームを選ぶ。前回のデータをチェックしてもらったところ,震災の年の2月にあつらえたらしい。女子医大横の脇道で転び,額を打ってしまい,眼鏡を壊してしまったことがある。あの後のことだろう。フレームをざっと見たものの,結局,今使っているのと同じくレイバンのフレームを選ぶ。若い頃はクラシカルなフレームや丸眼鏡をかけていた時期もあるが,オーソドックスなモデルの方が使い勝手よい。検眼の間,家内と娘は買い物に行った。ていねいに検眼してくれるので,それなりに時間がかかるのだ。

視力はそれほど落ちておらず,老眼が進んでいるので,近くが見えづらいのだろうとのこと。近距離を見るあたりの度数を調整してレンズをつくることになった。

19時半過ぎに終わり,途中,スーパーマーケットで買い物をしてから,最近できたらしい蕎麦屋で夕飯をとった。

かぜ気味なので早めに眠る。

電話とインターネットの契約先を変え,諸々と積み重なった無駄な更新をせずにすることができたので,かなりすっきりとした。特にパソコンデスクのまわりはコードが迷路のように絡み,非道い状況が続いていたのだけれど,必要なコードだけをまとめた。スタジオに入るとき用にとってあるシールドが入った大き目の鞄に放り込んだら,とんでもない量になった。

刷り出し

朝いちばんで印刷所に向かう。待ち合わせ時間ギリギリになってしまったため,恵比寿駅からタクシーに乗ったものの450円で到着する。近距離の場合,タクシーが本当に使いやすくなった。せっかくなのだから利用しなくては。

前回,印刷所まで刷り出しを確認しに行ったのは10年近く前だったと思う。色校正でカバーのオレンジ系の色がうまく出ないため,刷り出しをチェックすることになった。4色でオレンジ系の色はまあ,うまく出なくて仕方ないのだけれど。当時は,職人さんがいて,インクの割合を微調整ながら濃さを合わせていった。印刷所の営業担当者と一緒に1時間以上かけて色を決めた。その後,増刷のたびにそのオレンジの色はなかなか前の版と揃わなかった。

そういう光景は昔日のものとなり,今や,印刷機に小型カメラがセッティングされ,ミスやトラブルを逐次確認するだけでなく,印刷のムラや用紙の汚れが見つかるとすぐさま弾いて,その用紙に付箋のようなものが貼られるようになっている。付箋が一枚であれば用紙の汚れ,何枚か続くようであれば印刷機を止めて調整する。それらの様子が4面に分割されたモニター上に映し出される。

色味の加減はカラーバーをスキャンして4色の濃さをデータ化してチェックする。目の前で小数点2ケタ単位で濃度を調整しているの見て驚いてしまった。ただし,データ上は同じ数値であっても,仕上がりは微妙に異なってしまうことがあるのが印刷のむずかしさで,数人が1チームになって,色の出具合を複数の目で確認するのだという。

そんな具合だから,「グリーンがもっと強く出るように調整してください」と伝えると,微妙に数値を変えるのみ。昔はフィルムを洗ったりして濃さを調節することもあったのだけれど,いまやそんなことは化石のような作業になってしまったようだ。

印刷機の前で20分ほど確認して,刷り出しを数枚もらって会社に戻った。

午後からは池袋で打ち合わせ一件。最初,タカセの2階で待ち合わせをしていたのだけれど,あそこは平日は全席喫煙可で,分煙さえしていないことを知った。打ち合わせの先生がタバコはダメな方なので,服部珈琲店に移る。17時まで打ち合わせし,会社に戻った。

日曜日

日曜日は週末でもある。

新井薬師駅前の文林堂書店に入り,サイボーグ009の「ミュートスサイボーグ編」と新書2冊購入。交番横の喫茶店monに久しぶりに入る。平成の初めの数年,ここで夕飯をとったことが何度もある。混んでいると地下に通されるものの,1階に席を確保して休憩。家に戻り,週末のポストをアップロードし終え,夕飯を買いに駅前の定食屋さんに行く。オープン数か月だというのに人気で,21時閉店を前に売り切れてしまうことも少なくない。お弁当3つを頼み,30分ほどかかるというので東中野のブックオフまで自転車で向かう。神吉拓郎2冊,岡部伊都子,大熊一夫の文庫本を買って戻る。

「新潮」2018年1月号から連載が始まった矢作俊彦の「ビッグ・スヌーズ」を2回読んだ。弘明寺から山手に場所を移した「チャイナマンズ・チャンス」。今度はきちんとまとめてほしい。今月の「新潮」はそれ以外の作品も面白そうなので,とりあえず巻頭の国分拓「ノモレ 第一部 救世主の山へ」を読み始めたところ,不思議な感じがする。文体はノンフィクション,それもヘミングウェイのように短いセンテンスで畳みかける。1980年代の冒険小説のようなテイストだ。第一部とはいえ長いので,まだ最後まで読み終えていない。

コンビニ本でサイボーグ009を読み返しながら,「週刊少年キング」連載時は,主人公たちが徐々に傷ついていくことを改めて感じた。「ベトナム編」で002が片脚を失い,「ミュートスサイボーグ編」では009が胸を撃ち抜かれ,005は片手片脚をもがれる。005の傷はいつの間にか直っているものの,最終回では,005の表情は致命的だ。006にも死相が漂う。少ないページでまとめざるを得なかったため,1コマに描きこまれているが,このシーンを文字に起こしたならば,主人公たちのほとんどが致命的な傷を負う描写になるだろう。

「週刊少年マガジン」で再スタートした「地下帝国ヨミ編」では,008が非道く傷つく。

「月刊冒険王」での連載以後,主人公たちが傷つく場面はほとんどない。ラストと称してまとめられた,石森章太郎が実際には描いていない作品で,主人公たちは手酷く傷つきはする。しかし,そこに「ベトナム編」で002が片脚を失ったときに感じたような身体感覚を覚えることはない。

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