検索

するべきことがなくなった。所作もなく開けた共用キャビネットの奥に,古いラジオが放りこまれているのを見つけ,電池を入れなおしてみた。アンテナが折れてしまっていたので,ノイズの彼方でかすかに音が聞こえるくらいだった。しばらくダイアルを回しながらチューニングしたものの,結局,それ以上クリアに電波は入ってこなかった。スイッチを切った。

終電の時間が過ぎた。DTPマシンで台割をつくり続けるリーダーを横目に見ながら,私たちは書棚を片っ端からチェックしはじめた。資料になりそうな図は出てこなかった。原著がないことはわかっているのだから,参考になる図が出てきたとしても,それだって孫引きなのだ。

そのうちにリーダーもやることがなくなったようだ。少し時間を置いて,こう言い放つ。

「掃除しようか」

結局,始発の時間を遥か過ぎ,予想通り様子を見にきた社長に挨拶する時間まで,私たちは事務所をきれいに掃除した。

大部な単行本の出来が,リーダーの予定より大幅に遅れたことはいうまでもない。

それから2年経った。会社のサイトが立ち上がり,E-mailで仕事のやりとりがはじまった。珍しかったのでWebの画面を眺めながら,私は2年前の夜を思い出した。あのときWebが通っていたならば,もう少しは掃除の時間が短くて済んだのではないか,と。

ここからが本題。

当時のことでよく覚えているのは,素人のサイトは外して検索したことだ。それは今とはまったく違う感覚で,つまり雑誌や書籍の代替をWebに求めていたのだ。出所不明の文章は初手から相手にしなかった。検索エンジン・ライコスなんて“ゴミでも拾う”と揶揄されたものだけれど,結局,20年後,私たちがWebでチェックしているのはライコスで引っかかるような記事だ。当時の私には想像もできない薄汚れた未来にいる。

検索

インターネットを通して,なにがしかの情報を検索するようになったのは1997年頃からだった。

1995年の春先,チームで抱えていた大部な本の編集は佳境に入った。ゲラは出揃っていたので,引用箇所や細かな用語について文献と照合したりイラストのチェックが,そのころのおもな課題だった。当時のリーダーは何をとちくるったのか,その週の金曜日は徹夜して編集の山を乗り越えよう,と宣言した。

当日の夜。わけもなく,おにぎり屋で全員,夕飯を済ませた。リーダーは夜食用にと人数分を越えるおにぎりを包ませた。22時過ぎあたりまでは,会社に残った分だけ仕事は進んだ。その頃,22時,23時あがりが決して少なくなかったので,進んだ分は予定通りだ。

22時過ぎのこと。私が担当した項目には不明な箇所が散在したままだった。チェック箇所を1つ潰し2つ潰しして,あるイラストが残った。引用文献はコピーで,原稿を確かめると,コピー元にも引用文献が明記されている。孫引きだ。原典を追いかけなければどうしようもないにもかかわらず,もちろん事務所に図書館並みの蔵書を望むことはできない。

「これ,孫引きですね」私はリーダーに囁いた。そろそろ眠気と疲労がたまる頃なので,そんなことで神経を昂ぶらせたくなかったのだ。すると,別のメンバーが同じように原典をたどらなければならない箇所を持ち出してきた。気合だけで徹夜しようだなんて,体育会系なノリで始めるから,こうなるのだ。

まだ,終電に間に合う時間だった。リーダーは,著者からの原稿のなか,新田次郎の『八甲田山ー死の彷徨』を通してマネジメントの必要性を分析した内容を編集した経験がある。しかし,悲しいことに,そうした経験は所詮,他人事なのだ。夜食用のおにぎりにまだ手をつけていない。もしかしたら土曜日の午前中,様子を見に社長を出社するかもしれない。優先されたのは,そうしたことだけだとは伝わってきた。

「もう少し調べてみて」

その「もう少し」は終電時間を過ぎた時間であることも伝わってきた。

検索に思いを馳せるたびに,あの不毛な徹夜のことを思い出す。(繰り返しの記録になるものの,つづきます)

Link

旧ドメインをとめたあとで,旧サーバーにたまったデータをチェックして,リンクの修正をはじめた。マクロをつくって機械的に処理すれば楽なのだろうが,相変わらずのアナログチェックだ。

当初は新サーバーにデータをあげ,少しずつ修正しようと考えていたのだけれど,旧サーバー上にリンク先データが残っていると,見るのには問題ない。チェックするのは面倒だし,いきおい後延ばしにしてしまう。それもあって旧ドメインを止めてしまった。

テキストを開き古いアドレスを新しいアドレスに置換していく。月別の日記ログだけでも100以上ある。日にちごとの記述にリンクがある場合の修正までには手がついていない。どうにかデータが繋がった程度のものだ。

記述形式が異なる後半のデータは,パソコンでは問題なく開くのに,なぜかスマホでみるとテキストのエンコードが反映されず文字化けしてしまう。どこかに問題があるのだろう。

ただ全体,かなりすっきりとしてきたことは確かだ。

URL

諸般の理由で,サーバーと合わせて契約していたURL(www.localcolor.jp)も解約した。いや,たいした理由はないのだけれど,新サーバーでの設定が面倒そうなので,つい。

順次,こちらのサーバー上でバックアップしておいたデータの再構築をすすめていくことにする。

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