Solo

久米君が午前中までで退社。昼休みに郵送された伝票を当たり前のように渡す上長は,まあ,だから退職するのだな。微細にわたり準備してもらったマニュアルを確認し,営業・事務の机まわりを掃除しながらセッティングしなおす。

ほぼ引き継ぎなしに受けざるを得なかった9年前までの経理関係の残滓が手つかずであちこちに埋もれている。よほど頭にきたのだろうなとその伝票類を見ながら木霊が届く。

無理して編集の作業をすすめることなく,引き継ぎをチェックし19時過ぎに退社。帰宅後,家内とテレビを観ながら夕飯。片づけをしていると娘が帰ってきた。申し込んでいた赤い公園のロングTシャツが届いていた。コンサートまであと1週間。とりあえずココアアプリをインストール。

雨で塩垂れた文庫本の『ドアを開いて彼女の中へ』を途中から読み,サバの話になったあたりで,あれ? と思った。1979年に連載「ヨコスカ調書」第4回までを置き土産に,パンナムで世界一周旅行に出かけ,ニューヨークに住む予定が潰瘍をこじらせ帰国となった顛末は,いくつかのエッセイで読んだ。そんなふうに経過をつなげて理解した。ただ,この旅行,ずっと矢作俊彦ひとりで出かけたとばかり思い込んでいた。サバのエッセイを読み,このとき3人で出かけた事実が先の経過にようやく上書きされた。これまで幾度となく読み返していたにもかかわらず,へぇ,そうだったのか,という按配だ。

理解力に乏しいからではあるものの,こういうことがあるから,本は読み返すことだと思った。こういうことって,とくに生産性があるわけではないけれど。

事務

編集者には二通りいる。片づけ上手な奴とまったく片づけられない奴だ。と名無しの探偵が言ったかどうか定かではない。私はといえば,後者のまま30年以上過ごしてきた。あまり不便を感じることなく。

今後のこともあるからと,この1か月,週のうち数時間を営業事務に関するレクチャーで費やしている。30年以上経ても,本や雑誌の流通と,それに伴うデータベースの管理,書類の保管と発送について,ほんの一部にかかわっただけで済んだ。済んだのはもちろん,そのことを専門にして仕事をする人がいるからだ。

営業事務の引き継ぎをうけながら,編集の引き継ぎはこのようにはいかないな,と思うことがしばしばあった。というのも,進行中の出来事は幾層もの込み入った経過で結びついていることが少なくない。結局,企画に携わる一人ひとりについてレクチャーすることが本来,引き継ぎすべき要諦のはずだ。

現実にはしかし,これまで行なった数度の引き継ぎの局面で,経過はほとんどおざなりだ。編集者の仕事は,もう一歩を踏み出すことが優先される。踏み出すことができれば,経緯はあまり意味をもたない。踏み出すために必要な経緯は,人が替わればリセットされるようなものだ。

営業と経理を積み重ねたかのような営業事務の仕事をようやく理解しはじめると,一日,一週間,一か月,一年とまるで小学校の頃,図工か理科でつくったクランクのようだ。理にかなっている。車輪をまわし,届いたものをつなげば,基本的な仕事は顔が変わっても進むかのようだ。ばくちのような編集の仕事とは明らかに違う。

5/17

西ではすでに梅雨入りどころか,大雨の被害も出ているという。例年にくらべ数週間早い梅雨入り。都内も湿気が非道く,気圧の変化のためか,偏頭痛気味。

『風に吹かれて』を捲りながら通勤。前半は面白いものの,中弛みがあって,昔読んだときも,後半は読まなかった気がする。19時まで仕事。引き継ぎを受ける内容をチェックし,カレンダーに記入していく。ルーティンワークから越えて手を出すつもりはないものの,専従でまわしていた仕事だから,かなり多い。

新井薬師前駅の前の文林堂書店を覘こうと出かけたところ,緊急事態宣言下,今月いっぱい店を閉めていた。そのまま戻って帰宅。夕飯をとり,0時前に眠る。

STORESにP-MODEL関係のものを少しアップ。ロフトでは指値で並べたチラシなど。此岸のパラダイス初演,ラママはじめ,昔のロフトの半券など,引き取る人がいれば放出してしまおうと方法を考える。「ロフトといえばP-MODEL」枠のものを購入された方で希望があれば付けるくらいのところだろう。値段を付けてもしかたがなさそうだ。

昌己とメールでやりとりしていて,新しい事務所でときどき古本屋が開ければという話になり,友人に蔵書,CDを放出してもらったらどうか,と。再度明記しておくと,われわれの趣味が一般化しないことはこの30数年で何度も体験した。仮に一部を放出してもらったとしても,それは売上を上げる目的ではないと縛りをつけておく必要があると思った。このあたりのエクスキューズのとりかたはまあ,これも変わらない。

週末

土曜日は午後から仕事関係の予定が入っている。昼過ぎ,久しぶりに本を入れた段ボール2箱をカートに積み,新事務所まで引っ張る。部屋に荷を降ろして休憩。不動産屋で火災保険の見積もり。新宿経由で浜田山まで。

竹内敏晴さんのレッスンを見たのは浜田山だったか久我山だったか覚えていない。一度,このあたりにやってきた記憶はある。浜田山にはサンブックスに以前,立ち寄ったこともあった。とりあえず展覧会を見て,そのまま近くのドトールコーヒーで出版社を起こした方から話しを伺う。17時過ぎに終わり,吉祥寺で家内と待ち合わせ。よみやたの均一棚から文庫2冊を購入。アトレを覘き,吉祥寺通りまで出てカレーのテイクアウト。四半世紀タイムスリップしたかのような店内と店主。清潔感には乏しいものの,帰宅後食べたカレーはとてもおいしかった。

新宿経由で帰宅。夕飯をとり,つかれてしまったので,23時過ぎに眠る。

日曜日は,9時くらいに起きた。軽く朝食をとり,昼から茗荷谷の床屋まで出る。そのまま事務所で少しだけ仕事。15時過ぎに帰る。途中,池袋西口のビックカメラに寄り,リビング用の蛍光灯を購入。というかたまっていたポイントと交換。雨が止んでいたので,新事務所に寄る。STORES用に文庫の表紙をざっと撮影。昨日,置いたままにしたカートを引っ張って帰宅。1時間くらい眠る。STORESに登録をして夕飯。0時過ぎに眠る。

出版社を起業した方の話は面白かった。後ろ盾があったうえで,条件交渉などのメリット分は差し引いても,かなり近い領域で起業する際のコストなどがわかった。Amazonで経理関係の冊子を購入した。

五木寛之の『風に吹かれて』を読み返していたら,以前,「散歩の達人」で紹介されていた中野・クラシックを描写した箇所が出てきた。この頃のエッセイや口述筆記原稿は手持無沙汰のときに捲るのに手頃だと思う。教養と身辺雑記,世界を広げることにつながる知識が三位一体となった文章を書ける作家はあまり多くはないと思う。

5/13

雨。偏頭痛の気配はあるものの,痛み止めが必要なほどではない。いつだったかびしょ濡れになってしまった新潮社文庫版の『ドアを開いて彼女の中へ』を携えて通勤。20時前に退社し,電車のなかで捲る。この時期の矢作俊彦の文章は,風通しがよい,つまり,以前ならば使わなかったようなケバだった言葉をそのまま入っている。東京書籍版の次作,『ツーダン満塁』に至ると,ゼロ年代に復活した兆しが感じられるが,80年代後半からの10年間(つまり,昭和60年代)の文章のケバが昔から気になる。

「NAVI」で,スズキさんが編集長になってから掲載された文章にそれは顕著で,副編集長時代と何が変わったのかわからないが。暗記してしまった文章はいくつもある。ただ,それ以前に比べると,昭和60年代の文章は忘れているものが少なくない。

STORESを通して注文していただく方がここのところ増えた。週1回の受注を目標にしていたところ,一日に2名の方からの注文もある。均すと週1回程度の注文とはいえ,それなりの単価のものが動くので,今月の売り上げは1万5,000円を超えた。一箱古本市が毎週末開催されているイメージだ。

特殊なタイトルが動くのは常で,代替・補充できないものばかり。一巡すると止まってしまうのだろうと思う一方で,似たような趣味の方に発信すれば,それなりに反応があるようにも思う。1995年前,この環境がなかったがために,類は異なるけれどバンド活動をストップしてしまったのだ。それを思うと,量で質をはからない環境がSTORES上で少し実現したように思えてたのしい。