IN☆POCKET

雨。仕事を終え,閉店間際の喫茶店でコーヒー豆を買って帰る。1時間ほど眠り,夕食。STORESに「NEW パンチザウルス」12タイトルを登録する(ここ)。とりあえず1冊ごとに表紙と目次画像をアップした。

宮本輝の『避暑地の猫』を捲りなおしている。何の思い入れもない小説家で,ただ,この小説は創刊当初「IN☆POCKET」の連載で読み,面白かった。1983年から数年間分の「IN☆POCKET」はいまも書棚にあって,なかなか処分できない。

「IN☆POCKET」の創刊は,習慣で「ぴあ」「シティーロード」「ダ・カーポ」あたりを買っていた頃のことだ。きっかけは覚えていないものの,坂本龍一と村上龍の鼎談(ゲストを迎えた)企画を読むためだった気がする。『EV.Cafe』としてまとめられる前,月刊にしては,やけにリアルタイム感があった。数号遡って,店頭に並ぶバックナンバーを買い,その後,1986年くらいまで毎月買った。

と書きながら検索したところ,各社文庫本の刊行予定一覧が載っていたことも購入動機の1つだったと思い出した。文庫の刊行予定をチェックするほど入れ込む小説家がいたのか,これも覚えていない。当時,矢作俊彦は文庫を出す前の頃どころか,単行本さえ数冊しか出ていないのだから。

連載小説,連作短編企画がいくつかあったなかで,村上春樹の短篇はあまり面白くなく,デビュー早々の安部譲二のほうが面白かった。雑誌のなかで一番面白かったのが「避暑地の猫」だ。「IN☆POCKET」に載った小説が,単行本を経て,ふたたび「IN☆POCKET」で紹介される。いまとなればどうでもよいことに,当時はあれこれ意味づけていたのではなかっただろうか。連載「避暑地の猫」はその射程に近いところにいるのだろうなと,連載当時から感じた理由もやはり覚えていない。

この時期の,特にこの小説の印象だけで,長きにわたり,私は宮本輝を中間小説作家だと思っていた。あるとき,いや,矢作俊彦の小説が三島賞にノミネートされたときのことだ。選考委員に宮本輝の名前があったので,あれ? と思った。大江健三郎はさておき,筒井康隆の名前も並んでいたから,宮本輝は中間小説作家の枠から選ばれたのだろうと勝手に納得したものだ。

今世紀に入ってから「波」あたりで,妙な持ち上げ方をされているのを何度か目にした。斯界で,宮本輝はいつの間にか純文学作家に区分けされているのだと,ようやく理解した。いや初手から純文学のフィールドで作品を発表していたことを,私が知らないだけだった。

『避暑地の猫』を読み返しながら,これは連載と同じ時期に石森章太郎がマンガ化すればよかったのではないかと感じた。1984年前後の低迷期のなか,それでももう一歩を踏み出そうと苦しんでいた石森が,もしこの小説をマンガ化したならば,すばらしい作品になったのではないだろうか。小説を読みながら,石森のキャラクターをあてはめ,コマ割りまで想像してしまった。

「IN☆POCKET」はしばらく前に休刊したそうだ。30数年にわたる刊行期間のうち,初期の数年しか手にしていないので,その後,どのように変遷をとげたのかほとんど知らないし,あまり興味がない。私の興味が失せた時期の「IN☆POCKET」を大切に思う人だっているだろう。

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