神戸

神戸に二泊三日は長すぎかと思ったものの,それほどでもなかった。

昨日はパスした朝食を家族とともに17階のバーでとった。食後のドリンクはセルフサービスでなく,バーテンダーがつくりサービスされる。バイキングの種類も十分で,このホテルに悪い感情をもつことはなかった。

混雑していたため,バーカウンターに並んで食事をとった。カウンターの右端に,一人でノートパソコンを据え仕事のようなことをしている若い男がいた。決まった仕事場なのだろうか。

食事を終えて,荷物をフロントに預け,外に出た。家内と娘は乙仲通りでパンを購入する。元町のアーケードまで行き別れ,私はうみねこ堂書林に向かった。開店早々で,店の外の百均棚を眺めてから店内に入る。それほど広くないけれど,ミステリー中心に翻訳本,洋書なども揃い,とても魅力的な古書店だ。一通り棚を眺めて,河野典生の『街の博物誌』(ハヤカワ文庫)を購入して出た。

家内,娘と合流して,パティスリー・グレゴリー・コレで昼食。このあたりまでは出張の帰りに立ち寄ることができる範囲で,家への土産を購入するために何度か入ったことがある。食事するのは初めてだった。今回の旅行で入ったいずれの店もそうだったように,ここもとても美味しかった。

フロインドリーブ本店まで出かける時間はないので,大丸の地下に行ってここでもパンを購入した。ホテルで荷物を受け取り,タクシーで新神戸へ向かった。

当初は,矢作俊彦の「言い出しかねて」の現場の今を確認しようかとも思ったのだけれど,家族連れで福浦に足を踏み入れるのはむずかしい。それでも北野から港までの様子だけは確認することができた。

編集

埋もれてしまって見つからない号が数冊,新古書店の棚に並んでいたので,「ミステリ・マガジン」のバックナンバーを購入した。1973年から1978年あたりのもの10冊ほどだ。

矢作俊彦の「真夜半へもう一歩」連載分は30年以上前,神保町で1冊300円くらいで揃えた。当時,10年くらい前の雑誌が1冊300円というのは,それでも安いほうだった。購入したのは古書センター並びの古書店のはず。ここは「ミステリ・マガジン」のバックナンバーが豊富で安かった。今は品揃えがまったく変わってしまったので,別の店になったのかもしれない。いまやそのときに買った値段より安いのだから買いなおしてもしかたない。

マンガ版「長いお別れ」連載掲載号をすべて揃えると17,8冊になるため,当時は第1回から数号と終わりのあたりを買うに留めた。今回,その間が何号分がつながったので,あのマンガの全容がおおよそわかってきた。ポール・ニューマン扮するハーパーとマーロウの会話はほぼ吹出しで進み,描かれるのは「カサブランカ」などという,マンガでの表現としてはかなり面白い試みがあった。そんなことはすっかり忘れていた。

この時期の「ミステリ・マガジン」は企画としては本当に面白いものばかりだ。一方で,校正,校閲については,かなりルーズな感じがする。というか,誤植や誤用がしばしば目に付く。

編集の仕事は,企画を立て,著者と打ち合わせ,原稿入手して,原稿整理。印刷所に入稿(この前に基本フォーマットデザインの打ち合わせ/決定があるが),初校を校正して著者校正に流し,著者校正の赤字を反映して,再校へ。この間,校閲チェックがあったりして,目を変えて同じ原稿を何度も見る。「読むな」とよく言われたものだ。

用字用語に則って,原稿に赤を入れるにしても,パソコンで原稿整理をするようになる前は,編集者によって緻密さには大きな差があった。普段使う言葉も用字用語にしてしまえば,癖になるので,そうやって身につけるのが一番なのだけれど,それでも専門用語などは用語集を片手にチェックしたものだった。

早川書房の編集部は,企画についてはとても秀でた力をもっていることは伝わってくる。しかし,校正,校閲については企画ほどの力が感じられない。このアンバランスさが今も早川書房についてまわっているのではないかと思いながら雑誌のページを捲った。

もちろん,反対に企画力がなくて,校正・校閲に力を発揮するのならば,出版社として店をはらずに,編集プロダクションで食べていけばよいのだから,アンバランスさのバランスはとれているのだ。

ようやく矢作俊彦の「真夜半へもう一歩」について連載をもとに記すことができるようになった。その前に「王様の気分」を読み返しはじめたところだ。

神戸

昨日の赤ワインとビールのちゃんぽんが効いたのか,朝から頭痛がする。家内と娘だけで朝食に行ってもらい,すこし横になる。

9時頃起きだして,シャワーを浴びると少し楽になった。広い浴室でいつもよりゆっくりする。

11時前にホテルを出た。トアロードをお上りさんよろしく上がっていく。観光地を何か所かめぐり,昼食はCROSSでランチメニュー。三ノ宮まで戻って,シティ・ループでハーバーランドまで行く。休憩したりお店を見たりしていると18時くらいになる。

歩いて乙仲通りまで戻る。ココシカでパンを買い,夕飯をとる場所を探すことにした。中華街を2往復,決めかねる。牡丹園の向かいにあるビルの2階,クッチーナラトリエに入った。昨日の店に続き,ここも美味しい。デザートは別の店でとることにして,会計を済ませた。大丸前のオープンカフェ,カフェラが空いていたので入る。私はイタリアビールを飲む。

旧居留地をぶらぶらしてホテルに戻った。

神戸

神戸の旧居留地から乙仲通りに初めて足を踏み入れた。こんな景色が残っていたのだという驚きと(後で震災後の復旧について知ったものの),港,中華街,元高,北野まで,歩ける範囲に雑多な景色が包括されているのが面白い。

仕事で訪れるときは,ポートアイランドとビジネスホテルの間,大学や病院と駅の間を行き来するばかりで,せいぜい三宮の地下街から元町までを土産探しに通るくらいだった。繰り返すけれど20数年にわたって神戸を訪れて,知らない景色はまだまだある。

柄にもなく2泊3日の家族旅行について留めておくことにする。

14時を少し回った頃,新神戸駅に着いた。風は冷たく,気温もあがっていない。もう一枚上着を纏っても汗ばむことはない気候だった。そのままタクシーでオリエンタルホテルまで行く。荷物を預けてから観光に出かけようと思ったのだ。オリエンタルホテルのフロントは17階で,尋ねる前に,この時間からチェックインできると紹介を受けたため,サインをして部屋に入った。海側ではなかったものの,調度品も広さも十分すぎるものだった。数年前,各地のホテルにリーズナブルに宿泊できる予約サイトを使ったことがある。安いだけが取り得の非道い旅館に泊まることになり,それ以来,安価の旅館を使うことがトラウマになってしまった。

昼食をとるために外に出た。家内と娘は,ガイドブックに掲載されていた天井高の元銀行後にできたカフェかアフタヌーンティーがとれる店のどちらかへ行きたいという。後者が道路を挟んだ斜め前にあったので,まずそちらを覗いた。tooth tooth maison 15thという長ったらしい店で,佇まいがいい感じだ。ランチタイムギリギリだったため,かえって混んでいなかった。

日光東照宮の先にある明治の館もこんな感じだったけれど,こちらのほうが遥かに地に足が着いている。20年くらい前,出張の帰りに家内と待ち合わせて少しだけ神戸あたりをぶらついたことがある。そのとき,この店の本店で昼食をとったことを思い出す。

旧居留地から乙仲通りまで歩く。つまりは横浜の山下町から元町あたりの街並みがこんな感じになる可能性があったにもかかわらず,ほとんど魅力のない街になってしまったことのアリバイみたいな町の景色だ。乙仲通りは,吉祥寺の東急あたりと麻布十番を合わせて3で割り,高さを抑えたといってしまうと身も蓋もないけれど,全体そんな様子だった。

店を一軒一軒覗こうとする家内と娘とは2時間後に落ち合うことにして,私は元高をめざした。と,いっても中華街を越えて左のほうにしばらく歩けば一番地の入り口が見えてくる。

いつものとおり,マルダイ書店,サンコウ書店,古本ツインズを巡る。堀江敏幸のハードカバー2冊が安価で出ていたので購入しようか迷った。パトリシア・ハイスミスの『キャロル』が読みかけのままバッグに入っている。結局,このあたりでは購入せず,通りを挟んだレトロ倶楽部で雑誌のバックナンバーと久保田二郎の文庫本を購入して乙仲通りに戻る。

家内と娘は,いろいろと物色したようだ。近くのビル3階にあるひとところカフェに入る。ほとんど中央線沿線,吉祥寺か国立あたりのカフェという感じのお店。私はワインを飲んだ。一人でオーダーと調理をこなしている店員(店主?)は,国立あたりの大学生っぽい佇まい。しばらくしてもう一人店員の女性が戻ってきたものの,喧嘩でもしたのだろうか口を利かない。

その後,他の店を少し見て,夕飯にすることにした。何も決めていなかったので,娘が見つけたkitchen Ravoに入った。家内はお腹が空いていないというので,アラカルトで数品をとりシェアする。ところが,出てくる皿がすべて旨い。野菜の甘み,新鮮でおいしい魚,海のりのリゾットは玄米を炊き込んだもので,これまで食べたことのない風味と感触。すっかり満足してホテルに戻った。一日目終了。

モトコー

神戸元町の高架下,元高(モトコー)を歩く。数軒が店を構える古本屋を覗きにきた。休日の午後,シャッターの下りた区画は少ないとはいえない。それでもここを訪れるたびに,およそ正札がつきそうにないものでも,一度並べてしまえば,あとはなんとでもなることを突きつけられる。

古本屋の棚を眺めていると,テレビニュースの音が聞こえる。モトコーの大家・JR西日本が橋架の耐震構造の脆弱さを理由に,店子との契約を更新しないと打診してきたようだ。

本の背を追いながら,このあたりがなくなってしまうかもしれないといわれても現実感がわかない。

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